住宅ローンは、できるだけ早く返済した方がいい。
借金は少ない方がいい。
そう考えるのは、ごく自然なことだと思います。
実際、住宅ローンの繰り上げ返済には、将来支払う利息を確実に減らせるというメリットがあります。
一方で、別の考え方もあります。
低い金利で借りられるお金は、急いで返さずに、手元の資産を運用した方が合理的なのではないか。
いわゆる、イールドギャップを利用するという考え方です。
もちろん、これが正解という話ではありません。
ただ、35年という長い住宅ローンを組むのであれば、一度は考えておいても損はない話だと思います。
金利2%で借りて、年5%で運用する
例えば、住宅ローンを金利2%で借りるとします。
一方、手元の資産を株式で運用し、長期的に年5%の利回りが得られると仮定します。
その差は3%。
このような借入金利と運用利回りの差を、ここではイールドギャップと呼びます。
単純に考えれば、2%で借りたお金を早く返すよりも、5%で運用できる資産を持っていた方が有利に思えます。
ただし、ここには大きな違いがあります。
住宅ローンの金利は契約で定められた費用ですが、株式投資の5%はあくまで期待する利回りです。
毎年5%ずつ増えるわけではありませんし、元本が大きく減る年もあるでしょう。
それでも、長期の資産形成を考えるうえで、こうした数字を比較する意味はあると思います。
4,000万円の住宅ローンと800万円の投資資産
少し具体的に考えてみます。
- 住宅ローン:4,000万円
- 返済期間:35年
- 借入金利:年2%
- 投資資産:800万円
- 株式の年間運用利回り:5%
- 追加投資:なし
金利は35年間変わらず、住宅ローンは元利均等で返済するとします。
また、投資による利益や配当はすべて再投資することにします。
この条件で計算すると、20年後には次のようになります。
| 開始時 | 20年後 | |
|---|---|---|
| 投資資産 | 800万円 | 約2,123万円 |
| 住宅ローン残高 | 4,000万円 | 約2,059万円 |
驚くのは、20年間、投資資産に一円も追加していないということです。
それでも、計算上は投資資産が住宅ローン残高を上回ります。
もちろん、住宅ローンは毎月返済しています。元本が減ったのは、毎月の家計から返済を続けた結果でもあります。
しかし、投資資産の方は、最初の800万円が複利によって約2,100万円まで成長したことになります。
ここに、長期投資の大きな意味があるように思います。
投資資産Aと、住宅ローンB
もう少し一般化してみます。
投資資産をA、住宅ローンの借入額をBとします。
住宅を購入した時点では、一般的にAよりもBの方が大きいでしょう。
つまり、
A < B
という状態です。
しかし、時間が経つにつれて、住宅ローン残高Bは返済によって減少します。
一方、投資資産Aは運用によって増える可能性があります。
そうして、いつか
A = B
となり、さらに
A > B
となるかもしれません。
実は、この逆転に必要な時間は、最初にどれくらいの投資資産を持っているかによって大きく変わります。
同じ金利2%、運用利回り5%、35年ローンという条件で、何年後に逆転するためには、最初にどれくらいの投資資産が必要なのでしょうか。
| 逆転するまでの期間 | 必要な投資資産A(借入Bに対する割合) |
|---|---|
| 10年 | 約48% |
| 15年 | 約32% |
| 20年 | 約19% |
| 25年 | 約11% |
| 30年 | 約4% |
例えば、4,000万円の住宅ローンを組む場合、約800万円の投資資産があれば、20年程度で逆転するという計算です。
反対に、最初から2,000万円ほどの投資資産があれば、10年程度で逆転する可能性があります。
借入金額が大きいか小さいかだけでなく、借入額に対してどれくらいの投資資産を保有しているかが重要なのです。
ただし、この表はあくまで一定利回りで運用できた場合の理論値です。現実の株式市場では逆転時期が大きく前後します。
A=Bには、どんな意味があるのか
そもそも、投資資産と住宅ローン残高が同じになることに、特別な意味があるのでしょうか。
実は、それほど明確な意味があるわけではありません。
ただ、一つのわかりやすい基準にはなります。
投資資産Aが住宅ローン残高Bを上回っているのであれば、理論上は、その資産を売却することで住宅ローンを完済できます。
住宅という不動産の価値を考慮しなくても、金融資産だけで借入残高をカバーできるわけです。
もちろん、税金や株価の変動は考慮する必要があります。
しかし、生活防衛資金を別に確保できていて、毎月の返済にも無理がないのであれば、家計のバランスシートは相当に健全だと考えられます。
そして、ここが大切なのですが、
完済できることと、実際に完済することは別の話です。
返済できるだけの資産を持ちながら、あえて低金利の借入を維持して投資を続ける。
そういう選択肢もあるわけです。
毎月、貯金し続けなければいけないのか
資産形成というと、毎月の給与からコツコツ貯金することを思い浮かべます。
もちろん、貯蓄は大切です。
しかし、ある程度の投資資産が形成されると、資産形成の様子が変わってきます。
例えば、100万円を年5%で運用すれば、1年間の利益は5万円です。
ところが、2,000万円を年5%で運用すれば、100万円になります。
実際の運用成績は毎年変動しますが、元本が大きいほど、同じ運用利回りでも生み出す金額が大きくなります。
つまり、資産が少ない時期は、毎月の入金力が資産形成を大きく左右します。
一方、ある程度の資産が形成されると、自分が新たに入金する金額以上に、すでに保有している資産の運用成果が重要になってきます。
最初の800万円が、20年後に約2,100万円になるという計算は、その一例です。
毎月の積立をやめても、資産形成そのものが止まるとは限りません。
これは、投資を考えるうえで知っておく価値のある事実だと思います。
もっとも、投資の積立をしなくても、生活費や住宅ローンの返済は必要です。運用をしていれば働かなくてよいという話ではありません。
では、繰り上げ返済はしない方がいいのか
ここまで読むと、住宅ローンは返済せずに、できるだけ投資を続けた方がいいように感じるかもしれません。
しかし、そう単純な話でもありません。
繰り上げ返済には、将来の支払利息を確実に減らせるという利点があります。
反対に、株式投資は期待リターンが高くても、将来の成果が保証されているわけではありません。
また、住宅ローンの返済額が家計に占める割合や、収入の安定性、子どもの教育費、退職までの年数によっても判断は変わるでしょう。
金利が上昇することも考えなければなりません。
年5%の利回りを期待していたとしても、実際には10年近く株式市場が低迷する可能性だってあります。
そんなときに、住宅ローンの返済が重荷になってしまっては本末転倒です。
だからこそ、生活防衛資金を確保し、無理のない返済計画を立てることが前提になります。
金利を敵ではなく、味方として考えてみる
金利という言葉には、どこかネガティブな印象があるかもしれません。
住宅ローンの金利が上がれば返済負担が増える。
借金をすると利息を支払わなければならない。
その通りです。
しかし、金利にはもう一つの側面があります。
資産を保有する人にとって、複利は長い時間をかけて資産を成長させる力にもなります。
住宅ローンの35年という期間は、借金を返すには長い時間ですが、投資をする人にとっても長い時間です。
その両方を考えることが大切なのだと思います。
そして、ここには少し考えさせられる問題もあります。
投資資産を多く持っている人ほど、新たな入金をしなくても複利の恩恵を大きく受けられます。
一方、資産が少ない人は、まず毎月の収入から投資元本を形成しなければなりません。
同じ5%という運用利回りでも、得られる利益はまったく違う。
複利は資産形成の強い味方ですが、資産格差が広がる一因にもなり得るわけです。
だからこそ、資産形成の仕組みを理解しておくことには意味があるのだと思います。
おわりに
住宅ローンは早く返した方がいいのか。
それとも、借入を維持して投資を続けた方がいいのか。
答えは人によって違います。
年収も、資産額も、家族構成も、投資への考え方も違うからです。
今回のシミュレーションも、年5%という運用利回りを仮定した、一つのモデルに過ぎません。
ただ、一つ言えることがあります。
住宅ローンを返すことだけが、家計の財務体質を良くする方法ではない。
住宅ローンを返済しながら、金融資産を育てるという考え方もあります。
そして、十分な投資元本を形成できれば、毎月新たなお金を入れなくても、時間と複利が資産形成を助けてくれる可能性があります。
投資をすることが正解というわけではありません。
繰り上げ返済をすることが間違いというわけでもありません。
ただ、金利と時間がどのように働くのか。
それを知ったうえで、自分に合った選択をする。
35年という長い時間を考えるのであれば、理解しておいて損はない話だと思います。
