政府はシステムの運営者です。
では、その上流にある力学は何なのか。
ここを考えるときに避けて通れないのが、中央銀行という存在です。
本来、中央銀行は「通貨の番人」とされています。
物価を安定させ、金利を調整し、金融システムを守る。
しかし、リーマンショック以降の世界を見ていると、中央銀行は単なる通貨の番人ではなくなりました。
むしろ、株価の番人。
資産価格の番人。
金融市場の番人。
そう言いたくなるほど、中央銀行の役割は変質しているように見えます。
そして、この力学を理解するためには、FRBの生い立ちを見る必要があります。
FRB、つまりアメリカの連邦準備制度は1913年に誕生しました。
表向きには、1907年の銀行パニックへの反省から生まれた公的な中央銀行制度です。
金融危機が起きるたびに銀行が連鎖的に破綻する。
その混乱を防ぐために、最後の貸し手として中央銀行が必要だと考えられた。
これは事実です。
しかし、もう一つの事実があります。
1910年、ジョージア州沖のジキル島に、政治家とウォール街の銀行家たちが極秘で集まりました。
参加者には、ネルソン・オルドリッチ上院議員、財務省関係者、JPモルガン系のヘンリー・デイヴィソン、ナショナル・シティ銀行のフランク・ヴァンダーリップ、クーン・ローブ系のポール・ウォーバーグらがいました。
この会合は当時、極秘でした。
参加者たちがその事実を認めたのは、ずっと後のことです。
そして、このジキル島で作られた銀行制度改革案が、のちの連邦準備制度の土台になった。
ここまでは、陰謀論ではありません。
歴史的事実です。
ただし、ここから先の解釈が重要です。
FRBは、単純な民間銀行ではありません。
完全な政府機関でもありません。
中央のBoard of Governorsは政府機関であり、大統領が指名し、上院が承認します。
一方で、各地区の連邦準備銀行は、加盟銀行が株式を保有する特殊な構造になっています。
つまりFRBとは、政府と民間金融システムの中間にある、非常に特殊な制度です。
ここに本質があります。
通貨の番人を、通貨で利益を得る金融システムの中心にいる人たちが設計した。
もちろん、それだけで「悪」だと言うつもりはありません。
当時のアメリカには、実際に中央銀行的な仕組みが必要でした。
金融危機を止める仕組みがなければ、銀行パニックは何度も繰り返されたでしょう。
しかし、制度を設計した人たちが誰だったのかを見れば、その制度がどちらを向きやすいのかは見えてきます。
中央銀行は、金融市場を安定させるために存在する。
金融市場を安定させるとは、銀行を守ることでもある。
銀行を守るとは、信用システムを守ることでもある。
信用システムを守るとは、資産価格の崩壊を防ぐことでもある。
ここで、中央銀行の役割は自然に拡張していきます。
通貨の番人から、金融システムの番人へ。
金融システムの番人から、資産価格の番人へ。
そして最終的には、株価の番人へ。
これは誰かが密室で悪だくみをしたから、という単純な話ではないと思います。
むしろ、構造的にそうなる。
なぜなら、現代経済では金融市場が壊れると、実体経済も壊れるからです。
株価が暴落する。
債券市場が止まる。
銀行が貸せなくなる。
企業が資金調達できなくなる。
雇用が失われる。
年金基金も傷む。
家計も不安になる。
だから中央銀行は、市場を見捨てられない。
見捨てられない以上、市場は中央銀行の救済を期待する。
市場が期待すれば、中央銀行はさらに市場を意識せざるを得なくなる。
こうして、金融市場と中央銀行は互いに依存していく。
FRBの独立性も、ここで二重の意味を持ちます。
政治から独立している。
これは短期的な人気取り政策から金融政策を守るという意味では、必要な仕組みです。
しかし同時に、それは民主的な統制から距離があるという意味でもあります。
金利を決める。
量的緩和を決める。
バランスシートを膨らませる。
市場に流動性を供給する。
これらは、世界中の株価、不動産、為替、物価、雇用に影響します。
しかし、その決定を行う人たちは、選挙で選ばれた政治家ではありません。
バーナンキのQEも、パウエルのゼロ金利も、国民が直接選んだ政策ではありません。
専門家による判断として実行されたものです。
もちろん、専門性は必要です。
金融政策を毎回選挙で決めることなど不可能です。
でも、その結果として、巨大な権力が、民主主義の外側に近い場所に置かれていることも事実です。
だからこそ、経済を見るときには、政府だけを見ていても不十分です。
政府は運営者です。
しかし、現代のお金の流れを実際に決めているのは、中央銀行であり、金融市場であり、その背後にある信用創造のシステムです。
誰か一人の支配者がいるわけではない。
王様がいるわけでもない。
秘密結社がすべてを操っているわけでもない。
でも、支配的な力学はあります。
それは、金融市場を守ることが、国家を守ることと同義になってしまった世界です。
この構造を理解しているかどうかで、経済の見え方は根本的に変わります。
株価がなぜ下がると中央銀行が慌てるのか。
金融危機のとき、なぜ生活者より先に市場が救われるのか。
なぜインフレになっても、資産を持つ人はさらに強くなるのか。
なぜ現金だけを持つ人が、静かに購買力を失っていくのか。
それは偶然ではありません。
お金の流れる順番が、そう設計されているからです。
この仕組みを知ったうえでゲームに参加するのか。
知らないまま、ただ働き、ただ貯め、ただ物価上昇に削られていくのか。
その差は、時間が経つほど大きくなります。
だからこそ、気づかなければいけない。
中央銀行は、通貨の番人であると同時に、金融市場の番人でもある。
そして金融市場の番人である以上、資産を持つ人に有利な世界は、構造的に続きやすい。
これは陰謀論ではありません。
制度の成り立ちと、お金の流れる順番を見れば、かなり自然に見えてくる現実です。
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