最近医師の界隈で、直美(チョクビ)という言葉が話題になっている
また、一般人の間でもその言葉が浸透してきた
卒後研修を2年終えた後に、
医局に所属せず、美容外科や美容皮膚科などの
「美容医療」に携わる医師たちを指す
通常、内科でも外科でも一人前になるには
少なくとも数年の後期研修期間が必要である
この期間の苦労や安月給を嫌いチョクビになる
と思われているので
その動機の甘さから同じ医師からも
批判の的となりやすいのであろう
そんなことはないと
彼らが自分は美容医療が大好きで、患者のために
という美辞麗句を並べたところで
美容医療と保険診療の医師の間に
給与や拘束時間の歴然とした差がある
こういった構造が
お互いの誤解や嫉妬を生むことになっていると思われる
ただし、どちらの世界にも近くにいる身としては
美容医療を志すものの多くはお金儲けを一番に考えている
というのは事実だと感じる
美の追求やアンチエイジングは
人間の欲求の一つである
美容医療はその欲求に対する手法であり、ビジネスでもある
多くの美容に携わる人間にとって
美容医療はビジネスである
それを否定はしない
ビジネスでも顧客の満足につながれば
それは立派な職業、商売である
そしてお金儲けを考えているのは何も美容医療だけではない
町医者、開業医の一定数もそうである
彼らも専門は違えどお金儲けを考えているし
考えざるを得ないのは皆そうである
ただし保険診療には「適応」が存在し
それがチェック機構として
過剰な医療の抑止力となってはいる
チョクビは安くて辛い後期研修をスキップして
すぐに成功した開業医並みの給与を得ることができる
という点で若い医師にとって魅力的なのであろう
同時に、チョクビを考えていない若い医師の話では
明らかに「おかしいやつ」がチョクビになると聞く
チョクビ志望が研修医で回ってくると
働かないし、いつの間にかいなくなる(帰ってしまう)
自分は違うという人もいるだろう
これはあくまでも「そういう傾向が強い」というだけである
チョクビたちが一生懸命に客を獲得するために
SNSを行なっています
大御所たちはSNSやっていませんし
やっていたとしても自己紹介程度です
「二重、埋没法のプロです」
みたいな広告を見ますが
プロの料理人が
「目玉焼きを作るプロです」
と言っているような感覚がします
でも引っかかる人も多数います
コンプレックスや歪んだ美意識
あるいは異性にモテたいという欲望
若くありたいとする欲望
これらの欲望が
人生の全体像を俯瞰しにくくしています
そんな盲目な人をターゲットに行われる
美容医療もたくさん存在するでしょう
本物の医師に出会えれば幸いですが
ホンモノは隠れています
自分からやってきません
忙しいですから
後輩の医師にもとても真剣に「クライアント」(患者)のために
美容医療に取り組んでいるホンモノがいます
変わり者かもしれないが
そういう医師もいることも事実である
まだまだ真っ当で志高い若手医師の方が多い
そんな彼らの中にも
外科や内科、麻酔科を経て美容医療に進む医師もいる
これらの診療科での理不尽な経験や報われない苦労が
彼らの心を疲弊させ、
そうさせているのではないかと思う節はある
保険診療は安い
特に勤務医の給与は安いし、拘束時間も長い
命の最後の砦として活躍するほど給与は安くなる
この構造が保険診療医の中でも
心臓血管外科、循環器内科、脳神経外科などの
人の命を扱う診療科の医師にとって
やる気を削ぐには十分な事実である
彼らの給与をもっとあげてあげるべきである
そういった医師が報われる世界になって欲しいと願っている
チョクビの医師が増えるにつれて
美容医療における問題点も少しずつ表面化している
顔面の脂肪吸引による顔面動脈の損傷が血腫を形成し
それが急速に気道を圧迫し窒息死した症例
こういった事件は度々起きている
目も当てられない合併症が起きている
ただしニュースにはならない
広告費と同様、メディアに対して
お金を払うのである
お金には力がある
お金を持っているものが
情報をコントロールできるのである
厚労省もこの問題点に関しては調査を行ってはいるようで
形成外科の大学教授のところにインタビューや事情聴取に来ている
ただし、保険診療と違い自費診療は
国の財源とは関係がない
極論としては、
畑違いであり、
面倒さえ起こさなければ好きにしてもらって構わないという
考えがどこかにあるのかもしれない
けれどもこの時代に動きがある
それだけトラブルが多いということであろう
厚労省は卒後研修制度を作り、
医師の診療科偏在の是正を図った
これにより各診療科にバランスよく人が配置されるかと思いきや
結果、チョクビの人数が増えた
今や毎年200名が卒後研修をせず美容へ進む
多くの大学の医学部の定員が100名前後とすると
少なくない数字だとお分かりいただけるだろうか
国家における人口と一緒で
医局に所属する医師の数が減り
医局の力が弱まった
むしろこれまで強制的に行なっていた地方や僻地への医師派遣ができなくなった
これに関しては賛否あるとは思うが
医局は僻地医療を2、3年おき人を入れ替えることで
一定の平等や公平感を持って回してきた
そのような役割を担ってきた
それができなくなった
地方医療の崩壊は加速していった
厚労省は医師を労働者と定めた
そして、働き方改革が行われた
当直の回数などは制限され、時間外労働は制限された
ただし負荷の少ない夜間の労働は宿直とみなされ
労働時間ではなくなった
定義を変えることで
これまでの労働時間を労働時間と認めないというルールで
物理的な労働時間は変えず
制度上の労働時間を調整した
安い給与で常勤で働く医師は
土日にアルバイトで当直をして生計を立てている
それができなくなった
常勤先の病院で働くほど稼げなくなる
勤務医の休みがない所以である
独り立ち可能な40代そこそこの医師で
大学病院なら手取り30万円行くか行かないか
それくらいの月給である
それは家族を養ったり
家族との休日を大事にしたければ
やめていくのは当然である
そして残された医師は
さらにキツくなる
今、悪循環が止まらない
それでもまだ人のために
徳を積むことを第一に考えている医師もいる
彼らを犠牲にして成り立つ世界であり
彼らへの依存と負担は日に日に増加している
これらの問題は厚労省や政府のせいとは言い切れない
しかし結果としてこれらの対策は悪手であり、
診療科の歪み、地域の歪みは加速している
とても難しい問題である
一生懸命策を練っても
人々のマインドが変わってきている
楽な方へ楽な方へ流れていく
人と水は楽な方へ
下へ下へと流れていく
国や官僚も制度は変えることができても
人間のマインドを変えることはできない
人のマインドを変えるには
背中で語るような先人が必要だが
今の環境ではその先人達も疲弊している
少し世界の流れにも目を向けて欲しい
ここ100年、200年の間
人間の価値判断基準が大きく変化している
自分の利益を最大化する
一度手に入れた自分の利益は
他人を排除してまでも確保する
そういった人類全体に侵食しているそのマインドが
ここ数年
医療界では特にチョクビとして
表面化してきただけとも考えられる
世界中で人々はお金に執着し、
マネーの力が絶大になっている
かくいう自分も囚われの身である
マネーを持つものが世界を動かし
思い通りに操っている
うまくいかなければ
排除する
そんな世界になってしまった
マネーを持つものだけに責任があるのか?
でもこれは地球規模では人類全体の責任である
医療の話に戻します
皆保険でありながら
もはや機会は平等ではなくなっている
ただし持つものは高度の医療を享受することができる
「先生、この人政治家の息子さんらしいです」
「だから?」
「早く見てあげてください」
「・・・」
格差は医療にも確実に生じている
一度入った亀裂がどんどんと避けていくように
世界に入った亀裂もどんどんと裂けているようである
戦う人もいれば
声を荒げる人もいれば
静観する人もいれば
諦めている人もいれば
気づかない人もいれば(多くの人がここ)
見てみぬふりをする人もいる
人それぞれである
人それぞれであるのはいいけれど
日本人が日本人らしく
日本人らしく生きている人が
貪り取られることのないよう暮らせる
そんな世の中になることを
切に願いながら
今日も自分は自分の仕事をして
世の中の動きを注視しながら
この世界を生き抜きたいと思います
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