直美という選択について 一人の外科医から見た、医療と時代と物差しの話3

マインドフルネス

5.医師の仕事は、科学をインプットして「ことば」でアウトプットする仕事

ここで、少し視点を変えます。

医師という仕事をしていると、インプットしているのはほとんどが「医学」や「科学」です。

  • 病態生理
  • 薬理
  • 手術手技
  • 統計やエビデンス

頭に詰め込んでいるのは、かなり理系寄りの知識ばかりです。

しかし、アウトプットの瞬間に求められているのは、
「科学の暗唱」ではありません。

  • どう説明するか(コミュニケーション)
  • どんな言葉を選ぶか(ある種の文学性)
  • どこまで踏み込んで伝えるか(価値観)

医師という仕事は、

インプットのときは医学・科学。
アウトプットのときは医療であり、文学であり、コミュニケーション。

そんな側面を持っています。

言葉のメスと、モラトリアムの時間

僕は最近、精神科の先生方を見ていて、
彼らは**「言葉のメス」**を持っているのだと感じるようになりました。

  • 「あなたのしんどさは、決して甘えではありません」
  • 「こう感じてしまうのは、病気のせいでもあります」
  • 「一緒にやっていきましょう」

こういった言葉は、見えないところで人の心に切れ目を入れ、
うまくいけばそこをそっと縫い合わせます。

その意味では、すべての医師が、それぞれの現場で小さな「言葉のメス」を握っています。

こういうことを考え始めたのは、
ある意味で、自分の中のモラトリアムなのかもしれません。

人間、常に走り続けることはできません。

  • 自分の医療を振り返る時間
  • 選んできた言葉を反省する時間
  • これからどうありたいか、ぼんやり思い描く時間

そういった“立ち止まる時間”の中で、
「言葉のメス」という発想が浮かんできたのだと思います。

直美の問題を考えることも、
僕にとってはこのモラトリアムの延長線上にあります。


6.直美の医師が見ている景色と、まだ見えていない景色

話を直美に戻します。

直美を選ぶ医師たちは、きっと
先輩医師たちの行く末に限界を感じているのだと思います。

  • 働き方がきつそう
  • 収入も頭打ちに見える
  • 将来像があまりワクワクしない

そういった「目に見える部分」だけを切り取れば、
保険診療の世界が魅力的に見えないのも、ある意味当然です。

一方で、実際の医学はものすごく奥が深い世界でもあります。

  • 科学としての精密さやロジック
  • 「人間とは何か」「生きるとは何か」という哲学的な問い
  • 一人ひとりの人生に触れることで得られる、言葉にならない気づき

こうした面白さは、教科書や数ヶ月のローテーションではなかなか伝わりません。
でも、多くの中堅以上の医師は、心のどこかにひそかにこう思っているはずです。

「この学問、やっぱりとんでもなく面白いんだよな」

直美の医師たちが見ているのは、

先輩医師の働き方や収入といった、目に見える情報だけ

であることが多いのかもしれません。
学生+2年の研修という、かなり限られた物差しでこの世界全体を測ってしまっている。

本来であれば、彼らの潜在的な頭の良さと吸収力があれば、

  • 新しい医療の形をつくる
  • 学問を深化させる
  • 医療と社会の橋渡しをする

ことだって十分できるはずです。

そこまでの「面白さの地平」まで、
教育側が見せきれていない。
これも直美が増える背景のひとつだと感じています。


7.「患者さんのため」という言葉の軽さと、正直であること

これは僕の個人的な感覚ですが──

直美の医師が言う「患者さんのため」という言葉ほど、嘘っぽく聞こえるものはありません。

もちろん、中には本気でそう思っている人もいるでしょうし、
必ずしも嘘だと決めつけたいわけではありません。

でも、たとえ外向きにどう見えようと、

自分に嘘をつきながら続けている仕事で、本当にいいのか?

という問いは、一度は自分に向けてみた方がいいのではないかと思います。

僕としては、いっそこれくらいストレートに言い切ってくれた方が、まだ納得がいきます。

「自分は技術があって手術がうまい。
その技術を活かして美容に携わっている。
その結果として高い報酬も得られるし、
患者さんも喜んでくれる。
それが嬉しいんだ。」

お金やQOL、自分の承認欲求。
そういったものを全部“ないこと”にして、
きれいな言葉だけを掲げるよりも、

  • 自分は何のためにこの仕事をしているのか
  • どこまでが自分の欲で、どこからが本当に患者のためなのか

そのグラデーションを自覚したうえで、なおこの道を選ぶ。
その方が、よほど誠実な在り方だと感じます。

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