
今の時代、開業はリスクと捉えている若手医師も多いようです。
新規開業は無理ゲーだなんて話もよく聞きますよね
医師という職業は、専門性が高く、社会的信用もあるがゆえに、医療の外側にいる人々から「良いカモ」と見られてしまうことがあります。
その典型的な例が、「開業支援」や「コンサル」と名乗る人々とのトラブルです。
■ 知識がないまま飛び込むと、医療の本質が揺らぐ
ある高齢の方(かつて私立医科大学の病院長をされていた方)から、次のような話を聞いたことがあります。
開業したばかりの眼科医が、ゼネコンに言われるがままに数億円規模の設備投資をしてしまい、経営が立ち行かなくなってその方に相談に来たというのです。
その際、少し冗談めかしてこう言ったそうです:
「そんなに金かけたなら、患者を片っ端から並べて、ベルトコンベアーみたいに白内障手術を回すしかないな」
誇張も含まれていたとは思いますが、要するに「騙されると、理想の医療ではなく、“金を回す医療”しかできなくなる」という警鐘だったのだと思います。
人の役に立ちたい、社会に貢献したいという気持ちで医師になったはずなのに、経済的に追い詰められ、「回収するための治療」しか選べなくなる。
これほど本末転倒なことはありません。
■ 開業には何がどれだけかかるのか?
開業というのは、医療知識とはまったく別の世界です。
そこでは以下のような高額な支出が、次々と発生します:
- 土地の取得費・賃貸保証金
- 建物の建築費(テナントの場合は内装工事費)
- 医療機器や検査機器の導入費
- 電子カルテ・レセコンなどITインフラの整備費
- スタッフ採用・研修費
- 広告宣伝費・ホームページ制作費
- 運転資金(数ヶ月分の人件費、家賃、光熱費など)
- コンサルタント費用(開業支援、マーケティング支援など)
これらの費用の相場感や適正価格は、医師の立場からは見えにくいのが実情です。
コンサル料が高額すぎるのか、工事費に不当な上乗せがあるのか、判断する基準がなければ、言われるがままに契約してしまうことになります。
■ 搾取されやすい医師、守るべきは「人脈」と「疑う力」
結局、知らない世界に飛び込むときに自分を守るのは、以下の2つの力です。
① 人脈
すでに開業した先輩や後輩、学生時代の同期に話を聞いてみましょう。
特に「失敗談」は非常に参考になります。
医師はプライドの高い職種ではありますが、同じ釜の飯を食べた仲間になら、きっとリアルな話をしてくれるはずです。
優しさや誠実さを持っている人が多いのも、医師の特徴ですから。
② 疑う力
「先生だから特別にご紹介します」とか「この物件(この計画)は医師しか持てません」といった甘い言葉には、必ず裏があります。
誰が一番得をするか? その視点で冷静に考えることが大切です。
■ 終わりに:開業はスタートライン。搾取されない選択を
「金儲けの犠牲者」になった眼科医の話は、私たち全員にとって他人事ではありません。
開業はゴールではなく、医師としての第二のスタートラインです。
そのスタートを、無知からくる搾取で台無しにしないために——
人とのつながりと、疑う目を持ちましょう。
本当に理想とする医療を続けていくために、必要なのは、そういう“慎重さ”なのだと思います。
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