僕は大学で働く保険医です。
休日には美容クリニックでもアルバイトをしています。

先日、いわゆる“直美”の先生と話をする機会がありました。
医師4年目、直美2年目。
年収はおおよそ1800万〜2000万円ほどとのこと。
貯金はないらしいですが、それが本当かどうかはわかりません。
一方で、大学で働く同じ医師4年目のレジデントは、
当直やアルバイトを入れても額面800万円に届かないくらいでしょう。
これだけを見ると、誰だって心は揺れます。

同期が自分の倍以上稼いでいる。
それを知れば、
「自分はこんな場所で何をやっているんだろう」
そう思ってしまっても不思議ではありません。
でも、僕はあえて言いたい。
直美の医師の年収は、2000万円でも安いと思っています。

なぜか。
それは、彼らがその報酬と引き換えにしているものが、あまりにも大きいからです。
失っているのは、目先の時間だけではありません。
社会的信用。
同業者からの信用。
そして、医師として積み上げていくはずだった技術の広がりや深みです。

保険診療の世界に残る医師ですら、年齢とともにポジションを確保するのは簡単ではありません。
では、早い段階で直美に進んだ医師に、どれほどの将来性があるのか。
僕にはそこに大きな疑問があります。

ジャムおじさんのいない世界線で、自分の顔を切り売りしている「アンパンマン」みたいな感じに見えるんです。時間が経つほど価値は薄れ、自分では新しい顔は作れない、、、。

もちろん、美容医療そのものを否定したいわけではありません。
美容にも価値はあります。
患者さんの満足や自信につながる仕事であることも事実です。
ただ、問題はそこではない。
医師としての信用や、長い時間をかけて育てるべき土台を削ってまで得る高年収は、本当に“高い”と言えるのかという話です。
むしろ逆で、
営利法人が経営するクリニックに、一見すると高く見える給与で雇われ、
医師免許の価値を収益化のために最大限利用されているようにも見えます。

2000万円という数字だけを見れば、確かに高給です。
でも、その内訳を見ればどうでしょう。
若いうちのキャリアの幅を狭める。
医師としての市場価値を偏らせる。
周囲からの見られ方も変わる。
そして何より、自分自身の中に残るはずだった「積み上げ」が薄くなる。
そう考えると、2000万円は決して高くない。
むしろ、差し出しているものに対しては安すぎる、とすら思います。
以前、後輩がこんなことを言っていました。
「直美の先生って、死ぬ時に何を思うんですかね」

かなりきつい言葉ですが、妙に印象に残っています。
たくさん埋没したな。
たくさんヒアルロン酸を打ったな。
たくさん糸リフトをしたな。
そんなふうに、
“関わった人”ではなく
“こなした手技の数”が思い出になる人生だとしたら、
それは少し怖いことだなと思います。
もちろん、価値観は人それぞれです。
お金を重視する人もいる。
自由な働き方を優先する人もいる。
美容医療にやりがいを見出す人もいるでしょう。

それでもなお、僕は思います。
年収の高さだけで、その仕事の価値は測れない。
本当に見るべきなのは、
そのお金を得るために、自分が何を削っているのかです。
2000万円という数字に目がくらむ人は多い。
でも、その裏で失われるものまで想像できる人は少ない。
だからこそ僕は、
直美の給与は2000万円でも安い、と思うのです。
まあ、要するに価値というものを短絡的に、価格として捉えすぎなんですよね。


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