直美という選択について 一人の外科医から見た、医療と時代と物差しの話4

マインドフルネス

8.なぜ直美は増えているのか

――時代と構造の問題

もう一つ、ちゃんと考えるべき問いがあります。

「どうして直美が増えているのか?」

これは、個人の物差しだけの話ではありません。
時代のマインドと、構造的な問題が絡んでいます。

① 保険診療の「見えにくい報酬」と「見えやすいしんどさ」

今の保険診療の現場は、

  • 長時間労働
  • 夜間・休日の当直
  • クレームや訴訟リスク
  • 給与の頭打ち

といった「しんどさ」はとても見えやすい。

一方で、

  • 学問としての深い面白さ
  • 人の役に立つ実感
  • チームで医療をやる喜び

といった「内側の報酬」は外から見えません。
これでは、若い世代にとって魅力的に映らないのも無理はありません。

② 美容医療の「わかりやすいご褒美」

美容医療の世界は、

  • 年収レンジ(インセンティブ)
  • きれいなクリニック
  • SNS映えする働き方
  • ダイレクトな「ありがとう」

など、ご褒美が非常にわかりやすい

説明会やSNSでは、

  • 年収
  • 勤務時間
  • 休日

が前面に出てきます。
学生+2年目くらいの物差しで見れば、

「こっちの方がどう考えてもコスパがいい」

となるのは、自然な流れです。

③ 「コスパ」「タイパ」で人生を測る時代

さらに、今の時代の空気も影響しています。

  • コスパ・タイパ重視
  • 我慢や忍耐を「無駄」とみなす風潮
  • SNSが可視化する「効率よく豊かに生きるべき」というメッセージ

こういった価値観の中で育ってきた世代にとって、

  • 10年かけて専門性を積み上げる
  • 夜勤・当直を重ねてスキルを磨く

という世界は、どうしても

「割に合わない投資」

に見えがちです。

④ 医学の本当の面白さが伝わっていない

そして何より、医学という学問の本当の面白さが、十分に伝わっていない。

これは、教育側・先輩側の責任でもあると思っています。

👉じゃあ、ここで「保険診療はどうなのか?」と思うのです。これはまた別の記事で取り上げます。


9.自立した医師の直美と、そうでない直美

――時代の犠牲者という側面

すでに力をつけ、自立したうえで美容医療に進む医師については、僕は「それはそれでいい」と思っています。

  • 保険診療での研鑽
  • 合併症対応の経験
  • 腕のある指導者のもとでの研修
  • 自分の軸を持ったうえでの選択

であれば、それは一つのキャリアの発展形です。

一方で、そうではない「力のつく前の直美」は、かなり厳しい状況に置かれていると感じます。

  • 専門性が固まる前にレールチェンジ
  • 違和感を覚えても戻り先が少ない
  • ノルマと売上に追われる中で、医療とビジネスの狭間でもがく

とはいえ、医師免許がある限り、「完全に詰む」ことは少ないかもしれません。

  • 健診アルバイト
  • 非常勤外来
  • 当直

などで食い繋ぐことは現実的に可能ですし、
親が太ければ、若い頃に稼いだお金を元手に事業や投資で食べていく道もあるでしょう。

ただ、その価値観だけで本当に幸せを掴めるのか
そこには、どうしても疑問が残ります。

彼らを単純に「欲深い」と断じるのは簡単です。
でも一部の直美は、時代の犠牲者でもあるように思えます。

  • コスパ・タイパの価値観
  • SNSが作る「効率よく稼ぐべき」空気
  • 保険診療のしんどさばかりが可視化される構造

その中で医学部に入り、そのタイミングで医師になったがゆえに、
「そういう物差しで世界を見るよう仕向けられている」側面もあるからです。


10.おわりに

――どんな物差しで人生を測るか

進路やキャリアの選択は、最終的にはその人自身の問題です。
直美を選ぶことを、外から一律に禁止することもできません。

ただ、もしこれから道を選ぶ若い医師がいるのなら、こう伝えたいと思います。

直美が悪い・保険診療が善い、という単純な話ではない。
でも、自分がいま どんな物差しで世界を見ているのか だけは、一度立ち止まって見直してみてほしい。

  • お金
  • QOL
  • 自由
  • 学問としての面白さ
  • 人の役に立つ実感
  • 自分の中の誇り

どの比重をどう置くかは、人それぞれです。

ただ、「患者さんのため」と口では言いながら、
内心では自分に嘘をつき続けるような働き方をしていないか。

そして、医学や医療という世界の、本当の面白さに触れきる前に
「この世界はつまらない」と切り捨ててしまっていないか。

それだけは、一度自分に問い直してみてほしい。

直美という現象は、若い医師だけの問題ではなく、
僕たち先輩医師や医療システム、
そしてこの時代全体の価値観を映し出す、ひとつの鏡なのだと思います。

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