医師として日々現場に立つ中で、医学部を目指す「アホども」——過去の自分自身も含めて——に伝えたいことが山ほどあります。
ここでいったん、その想いをまとめておきたいと思います。
一番伝えたいのはこれです:
医療界の中には善人が多い。だがそれゆえに、世の中へのリテラシーが低すぎる。
視野が狭く、思考が内向き。医学や医療の枠を超えた知識・経験が圧倒的に足りないまま、「いい人」「真面目な人」が、どんどん搾取されていく。
「なぜ自分は医学部を目指すのか?」「医師として何を成し遂げたいのか?」
その問いを、どうか今のうちから深く考えてほしい。
1. 医療の限界と構造的な問題
(1) 医学の限界
- 医学は科学であると同時に、「わからないことだらけ」の領域。
- 慢性疾患、精神疾患は“治す”ことが難しいものが多い。
- 「科学的根拠」も、都合よく操作されることがある(例:ディオバン事件)。
(2) 医療制度の問題
- 診療報酬が「患者本位」ではなく「経営本位」に医療を動かすこともある。
- 保険診療=善、自費診療=悪という単純な構造ではない。むしろ、保険の方が利権と深く結びついている。
- 医療費削減の波により、病院経営は年々厳しくなり、医療者の負担は増加。
(3) 医療と市場原理
- 保険医療は「限られた財源を分け合う制度」。
- 自費診療(美容医療、再生医療など)は競争原理が働きやすく、健全な面もあるが、過剰広告によるリスクも。
2. 医師という職業の課題
(1) 思考停止と教育の弊害
- 医学部教育は“詰め込み型”で、思考力・批判力を育てにくい。
- 「ガイドライン通りに動く」ことが重視され、自分の頭で考える力が鈍る。
- 現場でも「上に従う」ことが求められ、意見を持つことが難しい風土。
(2) 医師とお金の現実
- 医師は「聖職」と呼ばれながらも、現実にはビジネスの一端。
- 開業・経営に関する知識が乏しく、コンサルに騙される医師も多い。
- 医局制度や人事の縛りなど、キャリア形成における不自由も大きい。
(3) 患者との関係性の歪み
- 医師は「寄り添いたい」と願っても、制度や時間に縛られてそれが難しい。
- 一方で、患者側も“医者に任せればOK”という依存的姿勢が根強い。
- 精神疾患では、診断→投薬だけで終わることが多く、本質的な支援に至っていない。
3. これからの医師に求められる視点
(1) 広い視野を持つ
- 医学だけでなく、経済・哲学・心理・社会構造を学ぶことで、医療を相対化できる。
- 人間を診る職業である以上、人間社会全体を見渡す力が不可欠。
- 特に、**「お金の流れ」**を読む力を養うこと。すべての制度は「誰が得をするか」に基づいて設計されている。
(2) 医療の外から考える
- 保険、自費、政治、医療ビジネス、製薬…医療は広大なシステムの一部。
- 海外の医療制度との比較を通して、日本医療の“特殊性”を知っておくべき。
(3) 理想と現実を折り合う
- 「理想の医療」と「現実の制度や制約」を天秤にかけ、自分なりのバランスを持つ。
- 燃え尽きないためには、働き方・生き方に対する柔軟な選択肢が必要。
- システムを批判しつつも、現場で希望を持って働けるスタンスを探ってほしい。
まとめ
医学部を目指すあなたには、医療の「表」と「裏」両方を、早くから知ってほしい。
医療は美しい理想と、利権・制度という泥臭い現実の両面を持つ。
そして、真に良い医師とは、ただ医学を学ぶだけでなく、「考える力」を持ち、広い視野で社会と人間を見つめ続ける存在である。
「医者になりたい」その動機が、未来の患者と社会にどう役立つのか?
答えのない問いを、考え続けてほしい。
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